星の王子様

星の王子様にはコンプレックスがある
小学生の時に、母親に読ませられ、感想を言えと言われ、
全然思いつかずに、数時間母親の前で机で泣いていた記憶がある

当時は、何が言いたいのか全くわからなかった
だから、感想なんて思う浮かぶわけもない
ただの子供向けの話だと思っていた
あぁそうですかという感じだった
当時の僕にとっては、昆虫や、魚の図鑑の方がよっぽどおもしろい本だった

就職し母親の元を離れ、一人暮らしを初めて、
星の王子様をたまたま図書館で見つけ、読み直した
ガキの頃は何が言いたいのかわからなかった本が、
今ならどういう意味だか理解できる
星を砕く木が何なのか
思いを砕く薔薇が何なのか
いばりんぼうの王様が何者なのか

年齢的に大人になってしまったが、大人になりきれなかった子供
そういう人のための童話だということが今更ながらわかった
そして、母親が、なぜ星の王子様の感想を求めていたかも
彼女は、大人になってしまったが、子供で居続けたかったのだろう
母親は、普通の大人になれなかったのだ
そして、子供の目から見た大人とはどういうものか知りたかったのだ

しかし、教育に熱心すぎたため、
僕は子供らしさを失い、星の王子様を読んで、
大人が望む「読書感想文」を語ることを覚えていた
でも、星の王子様は読書感想文が求める
「夢と希望にあふれた未来」や「将来へのちょっとした不安」
といったものとは全く無縁の話だったのだ

そして、小学生だった自分は、
将来は、夢と希望に満ちあふれていると思っていた
大人と子供は違う生き物だと思っていた
自分は変な子供で、大人は均整がとれたものだと信じていた
しかし、大人になってみて、星の王子様を呼んでようやくわかった
子供から見ると、大人は変な生き物だと

不幸にしてか、幸いにしてか、
自分も母親の後を追い、大人になり切れのぬまま、大人になってしまった
そういう人たちにしか星の王子様は理解できないということもわかってしまった
いろいろな星、とても小さなその星の「変な」住人

繰り返される、大人っておかしいっていう言葉
子供が知らない大人
大人になっても大人になりきれなかった人間のみが持つ違和感。
そういうものが星の王子様を書き上げているということを

それがわかってしまったことが悲しい
とても、とても悲しい
自分があれだけ嫌いだった、母親と同じ生き物になってしまったことを
そして、かつての自分を、大人を変だと思っている自分の中の子供を僕に投影する母親の気持ちを